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鉄フライパンの使い方

鉄フライパンを使う時に、食材を焦げつかさないように上手に使う方法というのは、いろいろな所に書かれていて諸説あります。

中には明らかに首をひねる怪しいものもありますが、自分なりに調べた結果「恐らくこれが正解なのだろうな」という方法をまとめてみたいと思います。

 

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1.焦げ付くパターン

焦げ付きのパターンには2種類あります。

 

焦げ付きその1

食品中の水分に含まれるタンパク質が、高温下でフライパン(鉄板)の表面に張り付いたまま固形化することで起きる焦げ。

 

焦げ付きその2

フライパンが極端に高温になることで食品が炭化してしまう焦げ。

 

この2つの焦げをどう防ぐか?がポイントになります。

そして問題となりやすいのは「焦げ付きその1」です。

これを何とかすれば、フライパンは快適に使えます。

 

 

2.フッ素加工のフライパンは、なぜ焦げ付かないのか?

フッ素(「テフロン」とも呼びますがこれはデュポン社の商品名)をフライパンの表面にコーティングすることで焦げ付きが起きにくくなるのはご承知のとおりです。

 

では、なぜフッ素コーティングで焦げ付かなくなるのでしょう?

 

 

意外なことに、 ポイントは「水」です。

正確には「吸着水」

空気中に存在する水は、分子レベルで様々な物質の表面に吸い付くのだそうです。

それが「吸着水」。

吸着水にはその相手の分子構造によって吸い付きやすい/吸い付き難いの差があり、鉄はとても吸い付きやすい=水と仲がいい

 

鉄の表面には普段から吸着水がいて、これが食品の水分と手を繋いでしまいます。

高温下で吸着水と食品側の水分とが出会うと強力に結合。

食品水分中のタンパク質が吸着水に捕まったまま固まってしまいます。

これが「焦げ付きその1」となります。

 

そしてフッ素は水と仲が良くない

フッ素の表面には吸着水が付きにくく元々の摩擦係数も低いことから、

食品側の水分と手を繋ぎにくい

=食品水分中のタンパク質が捕まりにくい

=焦げ付きにくい

となります。

 

そしてこの吸着水には変わった性質があり、100℃でも蒸発しません。

吸着水を短時間に蒸発(脱離)させるためには250℃程度の温度が必要らしいです。

吸着水、しぶとい!

 

 このしぶとい吸着水をどうやって鉄の表面から取り除くかが、焦げ付き防止の大事なポイントです。

 

 

3.「サビの防止」と「焦げ付きの防止」は別の話

よく「鉄のフライパンは買ったら最初に焼くんだよ」というような話がありますね。

 

これの目的は、

 

・製品出荷時に錆止めのために塗られているコーティングを焼き飛ばすこと

 

・高温に熱することで、鉄の表面に「黒錆」を発生させて、
 一般的な「赤錆」が発生することを防ぐこと

 

の2つです。

 

最初にしっかり焼いて黒錆を付けることで錆びにくくはなりますが、フライパン全面に均一な分厚い黒錆層が形成出来るとは限らないので、保管時には薄く油を塗っておく方が、より錆防止に有効ということですね。

そして、この 錆防止 の話と 焦げ付き防止 の話は

全く別の話です。

混同しないようにしましょう。

 

 

4.実際の手順

では、具体的にどうすればいいんだ?という話に移ります。

工程は大きく4つ。

手順1.フライパンを加熱して吸着水を飛ばす

手順2.吸着水の再付着を防ぐために油でコーティングする

手順3.フライパンの表面温度を調理に適した温度に下げる

手順4.フライパンの表面温度を調理に適した温度に保つ

 

 

手順1.フライパンを加熱して吸着水を飛ばす

まず油を注がない状態で(*)フライパンを熱します。

この時、強火はダメ。

強火で加熱すると表面の加熱具合にバラツキがでてしまうことでフライパンが変形しやすくなります。

 

ここでは中火程度の火加減で穏やかに加熱します。

ゆっくり穏やかに加熱することで変形を防ぎ、フライパン全体の温度を均一に上げることが出来ます。

ものの数分でフライパンから煙が上がってきます。

この煙が出てくる温度が先程の250℃近辺=吸着水が飛んでいく温度帯になります。

要は煙と同じタイミングで吸着水が飛んでいってると考えればいいようです。

 

 *) 注意!
フライパンを加熱する前に
油を注ぎ入れないこと!!

先に油を注ぎ入れてしまうと、たとえ煙がモウモウと上がっても分厚い油の層が邪魔をして吸着水が飛んでいきにくくなります。

そして油が多いことで発火の危険性も高くなり非常に危険です。

最初はくれぐれも油を入れないで加熱して下さい。

 

 

手順2.吸着水の再付着を防ぐために油でコーティングする

はい、フライパンから煙が出てきたら(=吸着水が飛んでいったら)

常温の油オタマ1~2杯分ほど注ぎ入れて全体に回します。

(たっぷり目に入れてください)

油が全体に行き渡ったらオイルポット等に油を戻し入れましょう。

この時、油は加熱しなくていいです。

ていうか、油が多く入った状態で加熱するのは大変危険です。(*)

 

これがいわゆる「油返し」になります。

油返しの目的は2つ。

 

1.吸着水が再付着しないように表面をコーティングすること。

 (バリアみたいなものです)

 

2.フライパンの温度を、

 250℃前後という調理のためには高くなりすぎた温度から

 120℃~180℃の調理に適した温度に下げること。

 

油返しに使った油をオイルポットに戻したら、調理に使うための新しい油を必要量注ぎ入れて準備完了です。

 

この時、火加減は中火以下。

鉄フライパンは温度が上がりやすいですから強火にするとあっという間に再び200℃以上になってしまい、「焦げ付きその2」 を引き起こすことにもなります。

鉄は蓄熱性が高いので、中火以下でも十分調理可能です。

中華料理店とかの見た目のイメージだけで

「鉄フライパンは強火で使ってなんぼやで!」

というのは間違いですので気をつけて。

 

※フライパンを200℃以上の高温にすると摩擦係数が下がるから焦げ付かないのだという説も見受けられましたが、いくら最初に熱しても油返しで油を注いだ時点で急速に温度は下がりますし、それを再加熱して200℃以上を維持したら後述するメイラード反応の温度域を超えてしまい、中に火が通りにくく表面だけが炭化してしまう「焦げ付きその2」の事態を引き起こします(中に火が通る前に外だけ焦げてしまう)。

 

 

手順3.フライパンの表面温度を調理に適した温度に保つ

大事なのはここです。

「焦げ付き1」の原因である吸着水は、フライパンの温度が下がると復活しやすくなります。

 

フライパンの温度が120℃以上くらいあれば、表面の油が食品の水分を瞬間的に加熱蒸発させて跳ね返すことが出来ます。しかし120℃より下がってしまうと食品の水分を跳ね返すのが難しくなります。

 

100~120℃前後では、沸騰した食品中の水分がその勢いでどんどん油を押しのけ、ついには油膜を破って鉄の表面に達し、その一部が吸着水として復活します。

こうなってしまったら水の勝ちです。

油は鉄を守りきれません。

復活した吸着水は食品中の水分を捉えて離さず、ついには「焦げ付きその1」が完成してしまいます。

冷蔵庫から出してすぐの冷たい食材を使うと焦げ付きやすいのは、このフライパンの表面温度低下が原因です。

 

「じゃぁ最初っからガッツリ強火を維持すればええやん」 

 いや、それだとすぐにフライパンの温度が200℃以上になって、食品は中に火が通る前に表面がすぐに炭化してしまいます。

 

★大事なのはメイラード反応!

いわゆる「こんがりキツネ色」な美味しそうな状態は「メイラード反応」というアミノ酸と糖による化学反応によって作られます。

そしてこのメイラード反応は160℃~180℃で発生します。

200℃以上で焦げ付き炭化した状態と

170℃前後でキツネ色になった状態は、

単なる色の差ではなく、全く違う状態だ

ということですね。 

 

つまり焦げ付きを防ぎながら美味しく調理するためには、

フライパンの温度を

120℃~180℃程度に保ってあげるのが

とても大事

ということです。

 

※フライパンの温度低下による焦げ付きについて、「フライパンの温度が下がって80℃になるとタンパク質が固まってしまう。80℃はタンパク質が固まる温度なんだよ。」というような説明も散見されますが、タンパク質はある温度位以上で固まるはずでしょ?
フライパンの温度が160℃とかの時には固まらずに(=焦げ付かず)80度まで下がって初めて固まる(焦げ付く)なんてあり得ないと思うんですよね。

 

※中華料理店のものすごい火力で鍋を大きく振って食材を動かすあの調理方法は、食材が長時間鍋に接して鍋肌の温度を下げないようにしつつ、さらに鍋自体が長時間加熱されて温度が上がりすぎないようにもしながら短時間で調理を進めるためのものだと思います。

素人が家庭の設備で簡単に真似できるようなものではないよなと。

 

 

【まとめ】

フライパンの温度を

上げすぎず

下げすぎず

穏やかにバランスを取りながらメイラード反応をコントロールいていく

 

フライパンの使い方のポイントは、それが鉄であれフッ素コーティングであれ、このバランス感覚にあるようですね。

 

 

 

付記1:フッ素コーティングのフライパンについて

フッ素コーティングのフライパンでも考え方は基本的には同じです。 

ただ温度管理が一部違います。

先ほど書いたように、フッ素コーティングは熱に弱いのです。

 

鉄フライパンのように煙が出る温度(250℃前後)まで加熱してしまうと、フッ素は破壊されてコーティングが剥がれてしまいます。

 

それまで鉄フライパンを使ってた方が、フッ素コーティングのフライパンをすぐダメにしてしまう原因は、この加熱しすぎであることが多いと考えられます。

※フッ素コーティングのフライパンを煙が出るまで熱してはダメ

 

要は鉄フライパンにとってもフッ素コーティングのフライパンにとっても

原則として強火は要注意

ということですね。

 

 

付記2:油の樹脂化について

油を塗った鉄フライパンを加熱すると、表面の油が重合反応というのを起こして樹脂化します(「重合体・ポリマー」になります)。よく換気扇などにこびり付いて取れない油汚れと似たようなものです。

このポリマーが鉄板の表面を覆うことで油馴染みが良くなり焦げ付きを防ぐという場合もあるようですが、ポリマーがフライパン全面をきれいに均一にコーティングする状態なんてそうそう簡単には作れないわけで、あくまで副次的な効果であると思われます。

ていうかポリマー層が形成されてない新品の鉄フライパンでも、ちゃんと吸着水を飛ばしてあげれば焦げ付きません。

 

 

長いお話に付き合って頂きありがとうございました。

でも、こういう概念というか原理というかを考えながら道具を使った方が、やってて楽しいよな!と思うので、あれこれ詰め込みました。

何かの道具を使った時に上手くいかなかったら、「何でや?」と考えてみるのは面白いですね。

 

 

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  • 発売日: 2017/02/10
  • メディア: ホーム&キッチン